バランス

 恋人が自分にめちゃくちゃ惚れているという状況では人間性がいつも試されているような気持ちになる。自分にめっぽう甘い私は、いつの間にか目をじっと見てニコリと笑いかけて機嫌をコントロールしたり、彼の買い物カゴに自分の紅茶のペットボトル(68円)を放り込んだりできるようになってしまった。付き合い立ての頃は対等であろうとして、何もかもワリカンになるように仏頂面で気を張っていたのに、なんたる体たらく。きっと68円とかからバランスは崩れていくのだぞーと思ってる、思ってるから許してください。素知らぬ顔をして紅茶を飲んでおいしーってニコリ。

 彼の車で一時間半かけて田舎のスーパー銭湯にきた。ごはんを食べて、ぬくぬく温泉につかる。免許を持たない(運転適性がないので持てない)私がここに一人で来ることはできない。この幸せは私一人では決して手に入れることはできないのだ。露天風呂で曇り空を眺めながら、この瞬間が人生のピークであとは落ちていくだけなんじゃないかっていう気持ちになる。悲しくはない。ただのこれから最も起こりそうな出来事。

 サウナで燻されて漫画を読んでゴロゴロして、最後にもう一度、と風呂に浸かる。私はなんでもいいから働こうと思った。地元のコンビニとか、本屋さんとかで、大学生と主婦に囲まれて。年下の先輩に怒られたり変な噂を立てられたりしながら、合間に小説や漫画を作って。それでいいじゃないか。それがいい。きっとそうして関係性の均衡は主体的に保たなければいけないんだ私よ、68円を払え。こんなのどうせ湯冷めと同時に冷える程度の決意だ。私は自分に甘いから。