ひとり芝居へようこそ

結局、バイトにいる男の子の7割を一回は好きになった。私は好きになる度に芝居をした。本当は誰でもいいから好きになるために芝居をしていたのかもしれないけれど、とにかくステージにあがりたいからその為には芝居をしなければいけないと思った。世間知らずなところを強調して、相手が調子に乗って俺スゲェ話でマウンティングしてくると「へぇ~すごいですねぇ~」と三倍くらい感心して、いいところややってることを血眼になって探しては褒めまくって、意識的に語彙を減らして呂律の回らない感じで話したりした。数うちゃあたる方式でその中には私を好きっぽくなってくれる人もいたんだけど、途端に「クソみたいな私なんかのクソ芝居に引っかかるものすごいクソバカ」に見えて、すごく気持ち悪くなってダメだった。

 

三文芝居にひっかからないいかにも遊んでそうなやつとかもいたんだけど、その手の人の背後にはいつもHG創英角ゴシック#blackで私への罵倒が書いてあるのが見えた。「アラサーの欲求不満ババア」「漫画描いてたとかニート期間隠すための嘘だろ」「自己顕示欲の塊の痛いブス」「底辺高卒のフリーターは俺と釣り合わないから」「メンヘラ女とは関わりたくない」とか、その人の横んとこの空間に特大サイズで書いてある。なので、その文字ばっかり読んでる。

 

今日も新しい男の子がやってきた。服も髪も態度も履歴書も何もかもよれよれで、モラトリアムの空気が口の端っこからいつもダダ漏れてそうな人だった。高そうな腕時計がアンバランスさの象徴みたいだった。絶対知らないようなマイナーなマンガ家が好きとかゆーから、誰やと思ったら丸尾末広。どちゃくそ有名じゃねーか。読んだことないけど。なんで古谷兎丸の話とかしてたら「でも、僕、知り合いの女の子で丸尾末広知ってたらヒキます。頭おかしいんじゃねーのと思って」とか言われて、「アハハ、そぉですかぁ^^」とか返しといたけど、なんかモヤモヤでいっぱいになった。女だったら特定の漫画は読まないでほしいとかいうダサくて古臭い価値観を女の私の前で披露してくるのもシャクだったし、そういうことを言える時点で「あっ今この瞬間コイツは私を女枠から除外しことを表現したんだな」ってのもシャクだったし、そいつのことちょっとかっこいいなって思ってたから余計シャクで、イライラして頭に血が上ってボーッとした。一旦この状態になるともうダメで、ミスをしたり人の話が頭に入ってこなかったりした。

 

そうやって右往左往しながらも平静を装い、そして中学生のようにボロを出している私を、いかにも性欲を抑圧してそーな女の子がじとっと見てくる。「またかよ、落ち着けよ…w」みたいな目だ。心の中で「バーーーーーーカ」って言い返す。あんたの気持ち知ってる。私ちょっと前までそこにいたもん。バカだなって思ってんだろ。無様だなって。私だったらもっとうまくやれるわ、もし、その時が来たら…その人が現れたら…とか思ってんだ。ほんとは羨ましいんだろ。ほんとは今すぐ私みたいに躍りたいんだろ。でも浮かれたり傷ついたりすんのが恥ずかしいから足が動かないんだ可哀想に。いいか。"その時"なんて待ってても一生来ないぞ。"その人"なんてそのままいい子にしてても一生現れねぇからな。芝居に出る気の無い臆病な奴は、そこのB席5,400円でオペラグラス使って指咥えて見てろよ。バーーーーーーーーカ。だけどその客席にいる女の子もよく見ると私だったりする。

弱さと悪は近接している

その時間帯のミスは全てその人のものになるし、その人の行為は基本的に全て疑うし、その人をあからさまに軽蔑する態度はとってもいいことになっている。私も完全に流されてしまっている。その人がひとたびミスっぽいことをすると、怒りで脳みそがぎゅうっとなる。ああこの私の正当な集団の為の怒りを怒らないと、今すぐ周囲に表現しないとと思う。なんだかこのこのぎゅうっには、少なからず下卑た嗜虐性を孕んでいる気がしてならない。

TSUKARE

バイトA(接客業)ではキツくて地味めな仕事Ωがあって、これを全然みんながやらない。みんながやらないからやっている。こういう誰かがやらなかったことをやりながら静かにイライラを募らせていると、いつも中学の頃牧師に聞かされたマルタとマリアの姉妹の話を思い出す。姉マルタがイエスをもてなそうとあれこれ準備している間、妹マリアはイエスの傍でお話に聞き入っていた。マルタは自分ばかり働いていることを不満に思い、「マリアにもっと働くように言ってください」と言ったが、イエスはそんなマルタを「お前は心を乱している。マリアは正しい方を選んだ」と叱った。要約するとこんな感じなんだけど、要するに、こうして「お前は間違ってる」とイエスに叱られるのではないかとビクビクしながら仕事Ωをしてイライラしている。なんだそれ。イエスに言われるまでもなく、多分私が本当にやらなきゃいけないことは、自分のキャパを越える前にきちんともうダメサインを出して他の人にバトンタッチしたり、自分だけがやっている!とイライラする前に実はみんながやっていることが沢山あるんだってことをきちんと認識したり、掛け持ちやから週2でシフト出してるのに週4入れてくるとか日本語わからんのかボケと一人でキレる前に6連勤してる人の存在をきちんと認識したり、自分が楽することばっかり考えてるフリーター男は訳知り顔で無駄にエラソーにする前に今すぐネクタイ絞めてどっかの会社の面接行ってこいやそして地獄に落ちろとか呪詛の言葉を前頭葉につらつら並べる前にきちんときちんときちんときちんときちんときちんとンアァ~っでももぉあとちょっとでここも辞めるからもうどうでもいいです。はい、そんなことより、少なくとも仕事中にケータイをいじって憚らないやつよりこれから先一週間だけ10円でいいからこっそり時給をあげてくれ。イエスの救いは要らんから10円でええんや。それでみんなが買えないポテチを帰りのコンビニで買えるからわしはそれでええんや。

挫折の季節

バイト先A(接客業)にあんま仕事しないオシャクソサブカルイケメン大学生がいて、仕事しないので「桐島部活辞めるってよ。が好きだ」の話になった。どっかの批評サイトからパクってきたの丸出しの「キリストで暗喩でゾンビでカーストがどーのこーの」と語るのを、へぇーうんうんと熱心に聞くふりをして、「で、誰に感情移入して見てるの?」と聞いたら、期待通りの東出君だった。私の観測範囲内で桐島サイドに感情移入してる人を初めて見た。他者だ。というか毎日他者と接しているはずなのに、彼ら彼女らをはっきりとゆっくりしっかりと「他者だ。」と認識する瞬間は案外少ない。なんとなく話通じないからって突き放すように「他者だ!!」と思ったりはするのだけど、その時は「他者だ。」と思った。映画自体の解釈もまったく違って、「映画部」を未知の外部からやってきた害悪にして己の価値改革の福音のように語るので、なんかスゲェと思った。

 

彼は漫画が好きで、私が以前出張編集部に持ち込みして玉砕した雑誌の新刊がお気に入りらしい。漫画って漫画好きな人しか読んでないと思ってたんだけど、漫画好きな人の中にも死ぬほど色々な層があって、それはこのブログでも多分そうで、ひとたびなにかを書いたら、相容れない価値観や境遇を持ってる人にも届くのかもしれない(既に届いているのかもしれない)と改めてきちんと感じた。興奮すると同時に凄まじい恐怖が私の身体を貫いた。こんなに違う人に読まれるなんて、ひていされるかもしれないんだ。きらわれるかもしれないんだ。むしされるかもしれないんだ。こわい。私はみんなに好かれる「べき」で、愛されないと存在してはいけないのに。

私の全人生のあゆみを止めているものの正体が影絵のように浮き出てくる。それは両親でも妹でもなく、「傷つきたくない」というあまりにも凡庸な気持ちだ。あ~傷つきたくない、あぁ~傷つきたくない。ってちゃんと書いたら多少マシにならないかなと思って書いています。

 

 

お世話になっております

バイトB(会社)で電話に出ている。毎日同じ取引先の大体同じ人から電話がかかってくるのに、いちいち「お世話になっておりますぅ~」とかお互い言う。酷い時には一日何回も同じ人と「お世話になっておりますぅ~」と言い合う。それがおかしくて、どんだけお世話になってるんだよと、お世話の正体とはいったいなんだよと居心地が悪いんだけれども、この感覚もすぐに薄れるんだろうなと思う。こないだは初めて会社の客にお茶を入れた。「お茶くみとコピー」=「主に女性がやらされる屈辱とされている仕事」というフィクションのイメージが先行して、お茶くみをした瞬間私の中のなにかが失われるのではないかと思っていたが、なんかごっこ遊びをしているような感覚のまま、あっという間に終わった。会社は形の世界だ。決まったテンプレートで生身の人間のコミュニケーションが覆われて、言葉は一つの意味の信号でしかないようにふるまうのが適切な場所。その辺は楽だ今のところ。

 

ところで私と同期で入って一週間でバッくれたヤツがとんだキチガイだったようで、会社の人がおろおろしていた。みんながそのキチガイからの攻撃やディスコミュからくる怒りを持て余して、そいつがどういう生活をしている人間かを、恋してるみたいな熱量で自由に想像していた。一人が「ああいう人間が生活保護を受ける。それが許せない」と言った。きっと、弱者はしおらしく清廉潔白でなければいけないと思っているんですね、無邪気な人だニャと思った。「かわいそうな人なんじゃないですか」と言ったら、「でも同情できないよ」と返された。私は全然同情しているのではない。他人をかわいそうがることは軽蔑と同じだから。でも言わない。言わないそんなこと。だってテンプレートじゃないし。

 

最近こうして言わないでおく言葉がものすごく多くなってきた。感性が活性化してきたということなんだけど、漫画も描いていないしカウンセリングも長いこと行っていないので吐き出すところが無い。そろそろ醸成されて色々描けそうな気もするし、突然風船がパチンと弾けるように溜まった言葉が頭をぐっちゃぐちゃのパァーにして無職に舞い戻るような気もする。その時はその時でまた年金猶予の届け出を市役所に出して猫と遊びます。

ダブルバインド

死にそうなほど働いているイケメンの店長にいい顔したくて「もっとみんなに甘えたらどうですか?^^」とか言っといて、実際にそういう風な態度をとられると「(寝ボケたこと言ってんじゃねぇぞ。本心曝して弱音吐いて同情ひいて人操ろうとするクラブ活動の方向性から脱却しろよ。もっとひいて集団を見て上手に嘘ついてコントロールしろよ。アサーションくらい勉強しろよクソが)」と思っている。完全なるダブルバインドである。というか思い返せば男性に全体的にダブルバインドを使っている。いつでも大体、褒めながら軽蔑しているし、質問しながら興味ねぇし、弱味を見せながらバカにしてるし、受け入れながら拒絶している。拒絶しながら希求している。以前女である私の目の前で「女が怖い、嫌い」と言ったやつがいた。そいつはもうそんなこと覚えていないだろうけれど。その時私は「(テメェが怖いのはどうせ女自身じゃなくて女というスクリーンに投影されている自分自身の性欲のコントロールできなさだろーが)」と思っていた。それは今も思っているが、さらに思うのは羨望だ。私だってテメェの前で言ってやりたい。私、男が大嫌いなの。特に私のお父さんに相応しくないようなバカとガキはむかつくから全員今すぐ死んでよって言ってやりたい。言ってそれを許されたい。絶対無理だけど。

 

そんなことを毎日考えているせいなのか、寺に座禅を組みに行った時、初対面のお坊さんに「きみはなんか怖い」的なニュアンスのことを言われてドキッとした。一緒に行った男の子は五つも年下なのに普段着が250円の着物でお爺ちゃんみたいな人で、私はいい年こいて『お嬢さん』になっていた。

「わたくし、こう見えて、西成区に興味がありますの。以前、三角公園や新地にまで、おっさんのお友達と連れ立って行きましたのよ。それはもう、とっても恐ろしいところでしたわ」

「そうですか。僕は休日のガイドのボランティアでたまに外国人を連れていくのですが、いつも驚かれます。『すごく平和なスラム街だね』、と。清潔だねと言われます」

「まぁ…今なんと」

「だって、死体が道に転がっていたりしないでしょう? 清潔ですよあの街は」

大体このような嘘みたいな会話をした。

 

私は猫だ。家から脱走しても家の周りをうろつくだけで本当は捕まえてもらうのを待っている我が家の猫と同じだ。こうして猫に若干自己投影しているから、母親が脱走した猫を抱えて「可愛いでちゅね~怖がりだから遠くに行けないんでちゅね~」と帰ってくる度に胃の奥のあたりがみしっと重くなる。帰ってきた猫のウンコ姿に心底安堵しながら「(テメェ早速にゃんとも清潔トイレしてんじゃねーよボケ。おんもでうんこしっこの一発ぐらいしてこいや)」と思っている。ダブルバインドの対象範囲は種を越える。

 

ところで今日、常連のお爺ちゃんが、髪を短くした私の姿をまじまじ見て「どうしたん。卒業か? 就職か?」と言った。就職はしないが転職はする。私はなんだか気恥ずかしくて、暫く下を向いてレジを打っていたのに、顔をあげるとまだ私のことをじいっと見ていた。そして「あんまり見てたらあかんな」と照れ隠しみたいに付け足して店を出ていった。ニートの時の法事や正月で親戚中からああいうカンジの湿度の高い眼差しで見られて、その度に惨めな思いをしたことを思い出したのだけれども、今回はそんなに気持ち悪くなかった。

おろかな掃除婦

むかしむかしあるところに、ブラック王国がありました。ブラック王国はかなりブラックな経済状態でした。その真ん中に立つお城には大変見た目の美しい王子様が住んでおり、たくさんの家来たちが仕えていました。家来の中に一人の掃除婦がありました。掃除婦は友達があまりおらず、暇な時間を空想をして過ごしていました。また、日頃から自分がブスであることを気にかけて、ごくごく少ないお給金でお化粧をしたりお洋服をあつらえたりして努力していましたが、毎日鏡を見てはため息ばかり吐いていました。それでも、王子様が毎朝一度の挨拶をしてくれるだけで、それだけで報われた心地がしてしまい、一日を頑張る活力が湧いてくるのです。

 

そして、そんな気持ちになっているのは掃除婦だけではありませんでした。全ての家来たちが、王子様が挨拶をする度にポッと顔を赤らめて、「ブラックで毎日しぬほど忙しいけど今日もがんばろう…!!」と思っているのです。掃除婦はみんなを見て思いました。『無邪気に喜んじゃってバッカみたい。王子様に骨の髄まで搾取されていることに気づいていないのね。大体お城のバイトが最低賃金で交通費も出ないとかふざけてるし。でも私は違う。私は沈む船に乗ったままでいるようなバカじゃないの。実は亡命のめども立ってるし。だけどあの見た目の美しい王子様が、もうちょっといてって言うから仕方なくいてあげてるの。私はみんなと違って、自覚的被搾取層なのよ』

 

ある日、王子様は英語のレッスンをしていました。窓を拭きながらなんとなく聞いていた掃除婦は、講師の子音がいちいち汚いのがどうしても気に触って仕方ありませんでした。そのうちふと講師が席を立ち、しばらくして王子様は掃除をしている家来たちに言い放ちました。

「今日のレッスンは非常によかった。だが私は、残念なことに、気の利いた礼を言える言い回しを忘れてしまった。だれか。だれかこの中にちょっとこなれた感のあるお礼の言い回しを知る者はいないか」

そこで掃除婦は間髪入れず

「You have been so helpful.」

と答えました。その目は恐ろしいほど真顔でしたが、唇は震えていました。

「おお。掃除婦、お前は英語ができたのか」

「Ye…は、はい。これは、あなたのおかげでとても助かりました、という意味です」

「なるほど。我申す、You have been so helpful.」

王子様の子音はしぬほど汚かったですが、その黒い瞳はとてもきれいでした。掃除婦は「(フーン…やっぱイケメンやな)」と思いながらしれっと窓拭きに戻りましたが、ガラスに映った自分の顔は隠しきれない嬉しさで真っ赤でした。

 

掃除婦はそれから王子様のために気の利いた言い回し英単語帳を作りました。王子様の実力をチェックするためのテストも作りました。講師よりも発音に自信があったので、全ての単語をカセットテープに録音しました。もちろんあくまでイヤイヤです。「私、なんてバカなことをしているんだろう…。だけど私が悪いんじゃない。王子様の見た目が美しいのがすべて悪いのよ」こうして、三日三晩徹夜して完成させた英語勉強セットを、次のシフトの時に、あくまでついでに持っていきました。だけどもなぜか王子様は浮かない顔です。掃除婦は、若くて無知なところのある王子様がきっと状況がよくわかっていないのだろうと思って言いました。

「王子様、前々から思っていましたが、あなたの悪いところは、実はそういう少し気が効かないところなのですよ。みんなはあなたを見た目だけでただチヤホヤするだけだと思いますから、私が言ってあげますね。私、みんなと考え方や感じ方がちょっと違うところがあるから、そういうの、『見えてしまう』…んです。これからもなおしたらいいなと思うところがあったら、私がアドバイスしてあげますから」

「チョウニュウレン」

「はい?」

「グンチョウニュウレン。英語はもう飽きた。今は中国の時代だ。ちなみに今の言葉は、帰れブス、という意味だ」

「失礼ですよ!? 訴えますよ!?!?」

「僕は本当のことを言っているだけだ。君はそうして分不相応に身なりを整えることばかりにかまかけているが、自分がなぜ低賃金の掃除婦なのかを考えたことがあるか? 僕は見た目のいい女が好きだから、身の回りの世話をさせる侍女には美人を選ぶのだ。はい侍女アウト。見た目がよくなくても頭のきれる者には、既にそれなりの仕事をさせている。はい官僚アウト。見た目も勝てない頭も勝てない、君に残っているのは、社会的敗者であるという絶対的事実からの逃避目的のためにカウチポテトみたいな具合で食い続けたつかえねー中途半端な知識でブク太りした自意識と、「自分だけは他人と違う考え方・感じ方ができる」だなんて根拠もバックグラウンドも実績もロクに無いふわっふわした感性(笑)を担保にしてなぜか国際規模にまで肥大化して平気でいる歪んだ自己愛だけだ。オマケに容姿もブスときた。そんな三重ブスが、一国を背負って表に立っている地位も覚悟も実態も実生活もある身体的王子である僕にアドバイス(笑)して悦に入っていることがどれだけ滑稽で何様状態か肌身で理解しろブス、ブスブスブスブスブスブスさて僕は何回ブスって言ったでしょ~か」

「は…はちかい」

「ブ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ス!!!!」

掃除婦は辛抱たまらず泣きながら駆け出す…みたいな他者に対するエモーショナルな身体表現は自意識と自己愛が邪魔してできないので、普通に「失礼しました」と言って部屋を出て、そのまま国をあとにして戻りませんでした。

「あの王子様、私のことをあんな風に言うなんて、やっぱり見た目だけのバカだったわ。私はなんにも悪くないのに…」

こうして掃除婦は次の王子様を探す旅に出ました。