ハイテックぎぎぎ

「君は社会人として経験と勉強がまだまだ足りていない。なにか話す前に一度自分のことを客観的に考えてみなさい。そして新しい君になりなさい」

こないだ上司に特大ロンギヌスの槍を腹にぶっ刺された。急にものすごく単純なミスを連発するようになった。もうメールひとつ満足に送れない状態。オイーッww テメーが急所ぶっ刺してくるからこんなことになっちゃったぢゃんww て人の所為にしてるけど、なんかもしかしたらはじめっからこんな状態だったのかもしれない。そんなんでボーッと仕事してるとまた喫茶店に呼び出されて上司が

「なんか溜まってることがあるんだったら遠慮なく言ってな」

「いや、なんていうか、私、やばいんじゃないかと思って…」

「うん。やばいか、やばくないかで言ったら、やばいで」

あ、ハイ。

「自分はそこそこ仕事できるほうだ」「そこそこ頭がいいほうだ」、というレイヤーを生まれながらになんの根拠も無く持っていたのだけど、それが突然非表示にされたので、色々なものが見えてきた感じ。

 

ある時上司からの指示がよく聞こえなかったので、聞き返すと返事が無かった。「無視された」と感じた。まぁしょーがねーよな、私がよく注意して聞いてなかったんだから、とアタマの中で自分自身に対して取り繕いつつ、無意識に手元のハイテックのキャップ部分を思いっきり握りしめながらあけしめしてぎぎぎ…とかしていた。あとあとから上司が「私、人の話聞いてない時があるから、そういう時は聞き返してください。もしかしたら無視したと思われたのかなと思って…」とフォローされて、そん時はそっかーわざわざ言ってくれるなんていい人だニャンと思ってたけど、もしかしたらさっきのハイテックぎぎぎ見られてたかもしれん。ハイテックぎぎぎ見られてイライラしてることを悟られてフォローされたのだったら非常にまずい。イライラしてハイテックぎぎぎしてしまうとかヤバイ人やん。まずハイテックぎぎぎは実は別にイライラのサインではなかったということを相手にサインしないといけない。なので私は日常的に手癖でハイテックぎぎぎする人だということを相手に印象付けないといけない。と考え、さりげなくいつでもハイテックぎぎぎするように努めようとしていた。このようにして、例えば、恥ずかしい動作とかを相手に恥ずかしがっているととられるのがイヤで、あとから相手の認知を上書き修正しようとして何度も何度も反復して同じ動作をして平気なふりをする、みたいなことを子供の時にやってたな、と思い出した。なんか私って今も昔も本当の本当に頭がおかしいんだな。

 

認知が歪んでると働きにくい。社会のスピードについていく為には正確な情報を正確に入力して正確に出力するという一連の動作を、素早く行うことが必要で、目玉も頭も心も歪んでる私にはそれがとても難しい。喫茶店で最後に「しょうもないものを溜めないようにしてね」と言われたけど、私の溜めてることって、「自分が自分の希望通りに周囲に扱われないことの不満」とか、「自分が未熟だということを認めること自体からくる多大なるストレス」とか、本当にマジでしょうもないことなんだよね。そんなん他人からは本気でしょうもない扱いされることは間違いないからせめて自分だけは、しょうもなくなんかないよ、そうだね、つらいよね、うんうん…みたいな感じで自分に接しようとするんだけど、気が付いたら虚空をレイプ目で凝視して唇の皮ベリベリ捲ってしまうし、なんでこの年になるまでほっといたんだろうとかばっかり考えている今のところ。舌が酸っぱい。NEET HATARAKE,IF YOU CAN

社会的透明人間

バイト先に、会社の業種に似つかわしくないカンジの騒々しいおばさんがやってきて、なにごとやーとオロオロしていたら保険のセールスらしい。保険のセールスのおばさんってほんまにおるんや。老人か金持ちの家にしか現れない人たちやと思ってたわ。おばさんは「何歳までにいい人見つけて結婚しなさい、親を安心させるために出産しなさい」と会社の若い人たちに次々と人生のアドバイスをしていた。正論っぽいことを真正面から雑にぶつけてくる人っておばさんに多いけど、相手すると言葉にコントロールされてめっちゃ消耗する。ので、私はロクに挨拶もせずにサッと他の人におばさんを投げて仕事に戻った。

 

おばさんは一人一人を見渡して言った。「目を見れば大体その人のことがわかる。○○さんはいい目をしてる。○○さんも勢いがある目をしてる」そうして、私のことはスルーした。透明人間になったらこんな感じなのかな。まぁでも、挨拶しなかったしな…。

 

おばさんが帰ったあと、「保険入ってる?」と話を振られて固まった。なんせ、こちとらハタチ過ぎてから年金すら払ってこなかった身だし、友達とは自分たちが60歳以上生きる前提の話をしたことがなかった。年金を払ってないことを、こうして他人に言えるようになったのも最近だ。正規雇用の人ってこんなカジュアルに、それこそ「ランチどこいく?」みたいなカンジで「保険入ってる?」とか人に振るんだ、カッケェ~と思いながら、「というか、年金すらだ~いぶ払ってないから、まずそっちを今からなんとかしなきゃいけないんで、自分の生き死にのこととかなるべく考えないようにしてますね…」「それはやばいね。それはやばい」二回もやばい言われた。さしずめ私は、将来をロクに考えてないバカ、ということになるのか。特に遊びまくってきた覚えもないし、人生を自分の好き勝手にしたという実感も、散々好き勝手しておいて実はあまりない。将来をロクに考えてない以前に、自分がなにをロクに考えてなかったのかすらロクに考えられないまま年ばかりとってしまった。保険とか年金とか結婚とか出産とか老後とか、そういった社会的な営みからしたら、その一切がいまいち自分の延長線上としてピンと来てない私は、本当に透明人間なのかもしれない。

ひとり芝居へようこそ

結局、バイトにいる男の子の7割を一回は好きになった。私は好きになる度に芝居をした。本当は誰でもいいから好きになるために芝居をしていたのかもしれないけれど、とにかくステージにあがりたいからその為には芝居をしなければいけないと思った。世間知らずなところを強調して、相手が調子に乗って俺スゲェ話でマウンティングしてくると「へぇ~すごいですねぇ~」と三倍くらい感心して、いいところややってることを血眼になって探しては褒めまくって、意識的に語彙を減らして呂律の回らない感じで話したりした。数うちゃあたる方式でその中には私を好きっぽくなってくれる人もいたんだけど、途端に「クソみたいな私なんかのクソ芝居に引っかかるものすごいクソバカ」に見えて、すごく気持ち悪くなってダメだった。

 

三文芝居にひっかからないいかにも遊んでそうなやつとかもいたんだけど、その手の人の背後にはいつもHG創英角ゴシック#blackで私への罵倒が書いてあるのが見えた。「アラサーの欲求不満ババア」「漫画描いてたとかニート期間隠すための嘘だろ」「自己顕示欲の塊の痛いブス」「底辺高卒のフリーターは俺と釣り合わないから」「メンヘラ女とは関わりたくない」とか、その人の横んとこの空間に特大サイズで書いてある。なので、その文字ばっかり読んでる。

 

今日も新しい男の子がやってきた。服も髪も態度も履歴書も何もかもよれよれで、モラトリアムの空気が口の端っこからいつもダダ漏れてそうな人だった。高そうな腕時計がアンバランスさの象徴みたいだった。絶対知らないようなマイナーなマンガ家が好きとかゆーから、誰やと思ったら丸尾末広。どちゃくそ有名じゃねーか。読んだことないけど。なんで古谷兎丸の話とかしてたら「でも、僕、知り合いの女の子で丸尾末広知ってたらヒキます。頭おかしいんじゃねーのと思って」とか言われて、「アハハ、そぉですかぁ^^」とか返しといたけど、なんかモヤモヤでいっぱいになった。女だったら特定の漫画は読まないでほしいとかいうダサくて古臭い価値観を女の私の前で披露してくるのもシャクだったし、そういうことを言える時点で「あっ今この瞬間コイツは私を女枠から除外しことを表現したんだな」ってのもシャクだったし、そいつのことちょっとかっこいいなって思ってたから余計シャクで、イライラして頭に血が上ってボーッとした。一旦この状態になるともうダメで、ミスをしたり人の話が頭に入ってこなかったりした。

 

そうやって右往左往しながらも平静を装い、そして中学生のようにボロを出している私を、いかにも性欲を抑圧してそーな女の子がじとっと見てくる。「またかよ、落ち着けよ…w」みたいな目だ。心の中で「バーーーーーーカ」って言い返す。あんたの気持ち知ってる。私ちょっと前までそこにいたもん。バカだなって思ってんだろ。無様だなって。私だったらもっとうまくやれるわ、もし、その時が来たら…その人が現れたら…とか思ってんだ。ほんとは羨ましいんだろ。ほんとは今すぐ私みたいに躍りたいんだろ。でも浮かれたり傷ついたりすんのが恥ずかしいから足が動かないんだ可哀想に。いいか。"その時"なんて待ってても一生来ないぞ。"その人"なんてそのままいい子にしてても一生現れねぇからな。芝居に出る気の無い臆病な奴は、そこのB席5,400円でオペラグラス使って指咥えて見てろよ。バーーーーーーーーカ。だけどその客席にいる女の子もよく見ると私だったりする。

弱さと悪は近接している

その時間帯のミスは全てその人のものになるし、その人の行為は基本的に全て疑うし、その人をあからさまに軽蔑する態度はとってもいいことになっている。私も完全に流されてしまっている。その人がひとたびミスっぽいことをすると、怒りで脳みそがぎゅうっとなる。ああこの私の正当な集団の為の怒りを怒らないと、今すぐ周囲に表現しないとと思う。なんだかこのこのぎゅうっには、少なからず下卑た嗜虐性を孕んでいる気がしてならない。

TSUKARE

バイトA(接客業)ではキツくて地味めな仕事Ωがあって、これを全然みんながやらない。みんながやらないからやっている。こういう誰かがやらなかったことをやりながら静かにイライラを募らせていると、いつも中学の頃牧師に聞かされたマルタとマリアの姉妹の話を思い出す。姉マルタがイエスをもてなそうとあれこれ準備している間、妹マリアはイエスの傍でお話に聞き入っていた。マルタは自分ばかり働いていることを不満に思い、「マリアにもっと働くように言ってください」と言ったが、イエスはそんなマルタを「お前は心を乱している。マリアは正しい方を選んだ」と叱った。要約するとこんな感じなんだけど、要するに、こうして「お前は間違ってる」とイエスに叱られるのではないかとビクビクしながら仕事Ωをしてイライラしている。なんだそれ。イエスに言われるまでもなく、多分私が本当にやらなきゃいけないことは、自分のキャパを越える前にきちんともうダメサインを出して他の人にバトンタッチしたり、自分だけがやっている!とイライラする前に実はみんながやっていることが沢山あるんだってことをきちんと認識したり、掛け持ちやから週2でシフト出してるのに週4入れてくるとか日本語わからんのかボケと一人でキレる前に6連勤してる人の存在をきちんと認識したり、自分が楽することばっかり考えてるフリーター男は訳知り顔で無駄にエラソーにする前に今すぐネクタイ絞めてどっかの会社の面接行ってこいやそして地獄に落ちろとか呪詛の言葉を前頭葉につらつら並べる前にきちんときちんときちんときちんときちんときちんとンアァ~っでももぉあとちょっとでここも辞めるからもうどうでもいいです。はい、そんなことより、少なくとも仕事中にケータイをいじって憚らないやつよりこれから先一週間だけ10円でいいからこっそり時給をあげてくれ。イエスの救いは要らんから10円でええんや。それでみんなが買えないポテチを帰りのコンビニで買えるからわしはそれでええんや。

挫折の季節

バイト先A(接客業)にあんま仕事しないオシャクソサブカルイケメン大学生がいて、仕事しないので「桐島部活辞めるってよ。が好きだ」の話になった。どっかの批評サイトからパクってきたの丸出しの「キリストで暗喩でゾンビでカーストがどーのこーの」と語るのを、へぇーうんうんと熱心に聞くふりをして、「で、誰に感情移入して見てるの?」と聞いたら、期待通りの東出君だった。私の観測範囲内で桐島サイドに感情移入してる人を初めて見た。他者だ。というか毎日他者と接しているはずなのに、彼ら彼女らをはっきりとゆっくりしっかりと「他者だ。」と認識する瞬間は案外少ない。なんとなく話通じないからって突き放すように「他者だ!!」と思ったりはするのだけど、その時は「他者だ。」と思った。映画自体の解釈もまったく違って、「映画部」を未知の外部からやってきた害悪にして己の価値改革の福音のように語るので、なんかスゲェと思った。

 

彼は漫画が好きで、私が以前出張編集部に持ち込みして玉砕した雑誌の新刊がお気に入りらしい。漫画って漫画好きな人しか読んでないと思ってたんだけど、漫画好きな人の中にも死ぬほど色々な層があって、それはこのブログでも多分そうで、ひとたびなにかを書いたら、相容れない価値観や境遇を持ってる人にも届くのかもしれない(既に届いているのかもしれない)と改めてきちんと感じた。興奮すると同時に凄まじい恐怖が私の身体を貫いた。こんなに違う人に読まれるなんて、ひていされるかもしれないんだ。きらわれるかもしれないんだ。むしされるかもしれないんだ。こわい。私はみんなに好かれる「べき」で、愛されないと存在してはいけないのに。

私の全人生のあゆみを止めているものの正体が影絵のように浮き出てくる。それは両親でも妹でもなく、「傷つきたくない」というあまりにも凡庸な気持ちだ。あ~傷つきたくない、あぁ~傷つきたくない。ってちゃんと書いたら多少マシにならないかなと思って書いています。

 

 

お世話になっております

バイトB(会社)で電話に出ている。毎日同じ取引先の大体同じ人から電話がかかってくるのに、いちいち「お世話になっておりますぅ~」とかお互い言う。酷い時には一日何回も同じ人と「お世話になっておりますぅ~」と言い合う。それがおかしくて、どんだけお世話になってるんだよと、お世話の正体とはいったいなんだよと居心地が悪いんだけれども、この感覚もすぐに薄れるんだろうなと思う。こないだは初めて会社の客にお茶を入れた。「お茶くみとコピー」=「主に女性がやらされる屈辱とされている仕事」というフィクションのイメージが先行して、お茶くみをした瞬間私の中のなにかが失われるのではないかと思っていたが、なんかごっこ遊びをしているような感覚のまま、あっという間に終わった。会社は形の世界だ。決まったテンプレートで生身の人間のコミュニケーションが覆われて、言葉は一つの意味の信号でしかないようにふるまうのが適切な場所。その辺は楽だ今のところ。

 

ところで私と同期で入って一週間でバッくれたヤツがとんだキチガイだったようで、会社の人がおろおろしていた。みんながそのキチガイからの攻撃やディスコミュからくる怒りを持て余して、そいつがどういう生活をしている人間かを、恋してるみたいな熱量で自由に想像していた。一人が「ああいう人間が生活保護を受ける。それが許せない」と言った。きっと、弱者はしおらしく清廉潔白でなければいけないと思っているんですね、無邪気な人だニャと思った。「かわいそうな人なんじゃないですか」と言ったら、「でも同情できないよ」と返された。私は全然同情しているのではない。他人をかわいそうがることは軽蔑と同じだから。でも言わない。言わないそんなこと。だってテンプレートじゃないし。

 

最近こうして言わないでおく言葉がものすごく多くなってきた。感性が活性化してきたということなんだけど、漫画も描いていないしカウンセリングも長いこと行っていないので吐き出すところが無い。そろそろ醸成されて色々描けそうな気もするし、突然風船がパチンと弾けるように溜まった言葉が頭をぐっちゃぐちゃのパァーにして無職に舞い戻るような気もする。その時はその時でまた年金猶予の届け出を市役所に出して猫と遊びます。