私とお母さん

男の子とセックスしそうになったとき、やべぇ、お母さんにどう説明したらいいかわからないって頭がいっぱいになったことがある。こういうときみんなどうしてるんだろ。「今からセックスしてきます。晩御飯はいりません」とかLINEするんですか?罪悪感とか、次の日どうしようとか、そういうモヤモヤとはどうやって折り合いをつけるんですか?そんなことあまり友達と喋れなくてよく知らないまますげぇいい年の大人になってしまったからインターネットに書いている。

 

私が一人暮らししていたとき、お母さんは人間ドックで不整脈が5万発出た。実家に戻ると500発になって、そして手術したら治った。お母さんは私が家を出てる間絶対に「寂しい」と言わなかった。だから私のせいなんじゃないかなって思う。お母さんは自立したい私のよき理解者のお母さんでいるためにずっと寂しい気持ちを我慢していて、だから不整脈が5万発も出たんじゃないかな。

 

私は、私たちは、お互いの区別がもうずっと長いことついていない。心も身体も。ってことなのかなと思う。要するにこれって。どっちが悪いとかどっちが正解とかじゃなくて。

 

今はたまたま日常の様々な作用で気分が落ち込んでいて、人生の上手くいかない出来事をぜんぶ母親との癒着のせいにすれば楽して解決(?)だねっていう思考の罠が働いて、認知を曲げているのかもしれない。そうじゃないことは私が私で証明しなきゃいけない。働いて自立して恋をして書を捨てて街へ出て。そんなことわかってるけどまだ家にいたい。ずっと子供でいたい。ずっとずっとこのまま、大人の出来損ないでいたい。でも、人間の心は、意志は、いつも一方通行じゃないことを、私はもう知っている。

 

お母さんはいつも綺麗にしていて私はいつもすごくみすぼらしい。お母さんは白いコートに黄色いスカートとか着るけど、私はボサボサ頭に猫の毛だらけの真っ黒なコートを羽織って地下鉄の真っ黒な窓に写ったら野良犬みたい。あまりにも野良犬だったので髪を切った。春だし、前髪にパーマもあててもらった。女の子みたいにくりんと巻いた前髪は、家に着いた頃にはセットが崩れて縮れてしまった。

「お母さん見て見て。パーマ陰毛みたいになっちゃった」

「なにそれ。変なこと。怖い。怖いわ」

お母さんは決して目を合わせなかった。娘の口から出た「陰毛」ごときでびびりまくって。子供二人も産んどいて、どっかの妻子持ちのおっさんとハートのスタンプをLINEで飛ばし合っといて、なんなのこの人。

なんなの。

お母さんは、私のなんなの。

「ごめんね。もうお母さんをからかって遊ぶのはやめるね。あはははは」

耳から入ってきた私の笑い声は、なにかを断ち切ることができそうなくらい鋭い、悲鳴みたいだった。