右左右左右左

新人くんの作業が異常に遅いので隣について様子を見ることになった。私だったら私みたいな半端な癖に態度だけでかい奴に口出しされるの絶対にイヤだな…とか思いつつ、「気にせずリラックスしてやってね!」とか声かけできるキャラでもないので、不自然なくらいの無言でパソコンの画面を見てた。そしたらなんか、視界の端で新人くんが口元をモゴモゴさせている。真一文字に結んだ下唇から下を、右左右左右左右左と動かしているのだ。剃り残しのヒゲとニキビ痕が目立つ生白い顎が、メトロノームよろしく正確なリズムで、歯軋りよりも軽やかに右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左。チック症状かなんなのか。その挙動を刻む為の労力を使えばもう少しスピードが出るんじゃ…? とか悪い冗談は言えないので、私は作業について指摘をする。「あのさ、ブラウザの矢印ボタンをわざわざマウスで押しにいくより、F5キーをおせばWEBページ更新できるよ。そのほうが絶対早いよ」「知ってます」「そっか……………………………」右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左。

 

帰りの電車で試しに顎を右左右左右左と動かしてみた。一駅分もしないうちにものすごく疲れたのでやめた。