サイコパスの地平

マッドマックスの上映終了時期が迫っていたので、会社帰りに見に行こうと思った。だが、隣で体調を崩し気味の先輩が定時を過ぎても依然としてダカダカ仕事をしている。

 

この先輩には普段から死ぬほどお世話になってるし、ふざけた態度をよくとるんだけどそれも容赦してもらってるし、今日もミスをフォローしてもらったし、ここはマッドマックスを諦めて先輩を助けなければ…。それが会社の機能としてマネーをいただいている人間の勤めなんや。私、えらい! 先輩のほうを向いて明るい声色と表情を作って「なにか私に手伝えることはありませんか!?」言ったとたんにぶわわわわわっと視界が涙で滲んで驚いた。この一連の感覚に覚えがあったからだ。

 

物心ついた頃から「良い子でいなければいけない圧」「悪い子を憎み蔑む圧」が異常に強く、「宿題やりたい!」とか「掃除したい!」とかよく言っていた。言いながら涙目になっていた。義務を放棄して欲求を通そうとするやつはアホだと軽蔑していた。良い子悪い子というのは実は大人にとって都合の良い子悪い子のことだとわからず、そんな風に無暗やたらに涙目になりながら自分の遊びたい欲を抑圧していたら段々頭がおかしくなっていった。旅行先で家族が遊んでいる中、プールサイドで大嫌いな地理のワークをしながらついにぼろぼろ泣いていたこともあった。それから色々とあって睡眠欲求の奴隷みたいになってた生活を経て、再び欲求を手懐け我見事社会に適応せんと試みたら、この有様だ。もうバカの一つ覚えみたいに、なにか目の前に不快な出来事があったら自分の欲求をガマンする、という抑圧のカード一枚だけでは生きていけないと思った。本当の私は他人の気持ちなんてどうでもいいサイコパスなんだ。他人の親切に甘えるだけ甘えといて、その他人様が助けを必要としている時もほったらかしてマッドマックス見に行きたがるようなサイコパスなんだ。ということを享受して、そのサイコパスの地平から他の交渉カードを開発して使って生きていかないといけない。もう他の手段を何も知らない子供ではないから。こんなに真面目そうな容姿なのに。メガネキャラなのに。他の会社ではやっていけなさそうなほど常識を欠いた人間なのに。

 

てか、涙目で「私、残業します!!」って言ってる人ってかなり異様だと思う。そんな鬼気迫る異様さを繊細に感じ取っていただけたのか、残業しなくてよくなったのでマッドマックス見に行けました。