家賃4万のウロボロス

これは夢だ。父親に布団の中に入ってこられて、小声で名前を囁かれながら脹脛を掴まれる。オナニーしてる時に母親や妹に部屋に覗かれる。定番の明晰夢。一人暮らしをしてから初めて見た。もう呻き声をあげながら汗だくで目が覚めることはない。またかと思う。まだかと思う。まだ私は解放されとらんのか。ベッドから降りて暫くしても脹脛は指の形に熱い。

 

最近週末になると母親からLINEがとんでくる。内容は猫のアップの写真+文字が「おーい!」だけ。なんなん? 「おーい!」って。めっちゃ怖いんだけど。母親はこのようにして自らの寂しさを自らのものとして責任を持って言語化することのできない人だ。前帰った時の母は、朝から風邪気味なのにどこかに出かけて、3時前にやっと帰ってきたと思ったら、昼飯に食卓が真緑。本当に緑色のものしかない。しかも量が多すぎる。「野菜不足やゆーてたやろー、知り合いの畑で収穫してきてん~♪」私は大嫌いなセロリのスープを吐き気と一緒に飲み込んだ。やっぱりこの人は頭が少し狂っているんだ。

 

絵や漫画は、過去に人に貰った褒め言葉を反芻したり、これから貰えるかもしれない褒め言葉を妄想しながら描いている。そんなことしてたら目の前のものが見えなくなり、どんどん質が下がる。そっちに夢中になっていることに気づくと打ち消すことができるけど、気を抜いたり間が空くとノイズはすぐに混ざる。うるさい。一刻も早くパンドラの箱を空けなければ。パンドラの箱を空けて、人に褒められるような漫画を描く為には、人に褒められることを欲望することをやめないといけない。自分の尾を呑み込もうとするウロボロスは、最後にはそこにいた蛇はどうなってしまうんだろう。どのみち脹脛を掴んでいるのは私自身だ。そんなことはもうずっと前からわかっているのだけれど。