自由になりたい

母親に、まんこに小型GPSを仕掛けられる夢を見たことがある。起きたあともしばらくの間怒りが収まらなかったのが不思議だった。

 

体調も天気も悪いわけではないのに、どうしてもバイトに行く元気が無い朝だった。「今日休もうかな(笑)」私はいちいち語尾に「かっこ笑い」をつけないと弱音が吐けなくなっていた。リビングで一心不乱にLINEをしていた妹が、携帯に目を落としたままぶっきらぼうに答えた。「は? そんなんで休めるもんなん?」「…いや、そら風邪ひいたことにするとか(笑)」「私、風邪ひいて仕事休んだことないわ」返事を自分の話に持っていくやり方がこないだ見た「紙の月」に出てくる田辺誠一にそっくりだと思った。いつもいつも自分の話ばっかりしてんじゃねぇよ。私はしんどいんだよ。ちょっとは私の話を聞けよ。ポーズだけでも共感しろよ。いつもいつも私が、想像力と共感性に乏しい母親の代わりに、お前にやってやってるみたいなリアクションをとれよ。という気持ちを、相手に伝わり易い言い回しに変えたりするひと手間をかける気力がもう無くて、「オマエさぁ…死ねよ(笑)」とだけ言って家を出た。

 

電車に揺られていて、「紙の月」の終盤を思い出す。お局さん的な立場の小林サトミが『自分も好きなことをしようと考えた時に、徹夜ぐらいしか思いつかなかった』というセリフだ。私も今、仕事をほったらかして好きなことをしようと真剣に考えてみたが、このまま引き返して家で一日寝るぐらいの選択肢しか思いつかなかった。今すぐ会いたい彼氏もいない。飛び出して行きたいところも無い。浴びるほど飲みたい酒もたらふく食べたいものも無い。何に代えても綴りたい物語も無い。つまんないつまんないつまんない。自由になりたい。