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私のお兄ちゃん

二つ上の兄から突然メールがあった。「出張で関西に来てる。行けたら今からゴハンでも」。原文ママ。さすが化石のガラケーユーザーの文面はそっけない。マジメ気質な兄はウン年前、両親が離婚すると言い出した時、ダメな父親が心配だからと家に残った。(母についた私は冷たい呼ばわりされた)そのくせ、地元の三流大学を出たらあっさり彼女と結婚して、関東の企業に就職していった。それからは年に一、二回ぐらいしか会っていない。「冷たい」呼ばわりされたことは未だに根に持ってっているが、ちょうどヒマだったし、適当に会うことにする。

「小説も最近は全然描いてへん。会社でも相変わらず浮いてる。そんでなんか、人から愛されるために生きてるみたいなやつがいて、そいつのことが自分見てるみたいでめっちゃムカつく」

グダグダ管をまく甘え方しかできない私の話を、兄は叱るでも諭すでもなく聞いた。「そうか。そいつは多分、愛されることがどういうことかわかってへんねんなぁ」

ガキの頃、私たちはモノポリーをよくした。私は負けん気が強い癖にゲームは弱い。負けが込むと段々機嫌が悪くなる。そんな私をせせら笑いながら打ちのめす兄、というのがいつもの構図だった。ある日、私がついに癇癪を起して派手に泣き出すと、気の弱い兄はおろおろして「せや。今から、借金多い方が勝ちな」と言い出した。おかげでゲームはむちゃくちゃに掻き回されておかしかった。

兄は夏に生まれた娘の写メをもじもじ見せてきた。鞄から取り出した携帯は、なんとピカピカのスマホだ。「全生涯ガラケー教通すて散々言うてたやん」「せやねん。○○ちゃんいっぱい撮らなアカンと思って」私にとっては姪っ子にあたるのだが、一度会ったきりだから正直可愛いとか可愛ないとかいう実感がない。なんじゃこりゃ。というカンジ。それよりも、猫背になり真剣な目つきで画面をタップしている兄の方が、私には可愛かった。だけどこの人はもう、別の家族がいる父親なのか。私の家族に戻ることは、もう二度と無いのか。「私、お兄ちゃんの子供になりたい」。今ここでそう言って泣き出してしまえば、いい加減負けが込んでいるこの人生を、またルールを書き換えて掻き回してくれはしないだろうか。