こんにちはど天然です

昼休憩用に奮発してサンドイッチを買った。ハムとタマゴの一番安いものだが、普段スープとおにぎりのセットで200円前後に収めている身としては、ハムタマゴサンド単品210円は高級品である。ワクテカしながらハムタマゴサンドを、朝職場の冷蔵庫に入れた。さて、昼休憩で取り出すと、明らかに様子がおかしい。異様な冷たさだ。しかもパンが固い。なんということだ。凍っている。私は冷蔵庫と冷凍庫を間違えていたのだ。しかも無意識にではない。記憶がある。「こっちの方が邪魔にならないだろうな」と、隙間の多かった冷凍庫を選んで入れたのだ。その瞬間、入っているモノや温度の雰囲気を読むという正常で全うで誰にでも思いつくカンタンな判断基準は、確実にきれいサッパリ抜け落ちていた。

ずっと他人から「天然」と称されることが苦痛で仕方なかった。理屈をこねまわし、自意識と戦って生まれる血文字のような頭の中の言葉は、瞬間的で流動的な社会のコミュニケーションでは全く役に立たない。やっと「あっ…」だの「うぅ…」だの「ハィ…」だのカンタンな音声を形作ることで精いっぱいだ。縦横無尽に肥大しまくった自己から、その部分だけを切り取って見た他人は、私を「天然だねー」と言う。そのおおよそ自己イメージとかけ離れたむず痒く柔らかな、隠し味に侮蔑を含んだ言葉を、「どうせ付き合いのない人の言い分だし」と聞き流すことにすら、エネルギーを割いてきた。

だが今日、霜の降りたハムタマゴサンドを食べながら、静かな思いを噛み締めた。『わい、やっぱり天然とちゃうか…』シャキシャキのパンは歯に染みる。