保守おじさんのカバンは黒の斜め掛けか登山するみたいなリュック

私は男性の襟足が長い髪型が大嫌いだ。ニーハイの絶対領域好きが、半端な丈のスカートを憎む要領で襟足を憎んでいる。そこで気が付いたのだが、私にとっての絶対領域は、うなじなのだ。特におじさんのうなじが気になって仕方がない。もう、舐めたい。中でも、白髪がぽつりぽつりと生えている、おじさんとお爺ちゃんの中間の男性がサイコーだ。おじさんのうなじは大体汚い。日焼けして赤黒い。恐らくきちんと洗ったことも無いのだろう。寧ろ自分の体の一部として認識しているかどうかすら危うい。なんて無防備なんだ。極め付けは公務員や研究職や教師っぽい、保守的でオシャレに無縁な、クソ暑いのに毛玉だらけのニットベスト着ちゃうようなおじさんのうなじ。溜息が出るほど無防備の極み。

ところで私は、人の身体のエッチな部分とは、他者性の介入によって創造されるものではないかと考える。例えば巨乳好き男に対して、オッパイが武器だと思って る女のオッパイは全然エッチじゃない。それに対し、おじさん自身が存在を意識すらしていないようなうなじは、おじさんの他者である私が介入しそこに新しい価値観を付与することで、初めてエッチな部分になる。この創造的な変質。

満員電車とエレベーターはヤバイ。下りエスカレーターは、普段の 生活でおじさんと私の身長が逆転する唯一のチャンス。前に好みのタイプのおじさんがいると心が躍る。満を持して、うなじをじぃっと凝視してしまう。私はどうやら昔から気になるものをじっと凝視してしまうクセがあるようだ。例えば芝居のアンケートを書く時など、「隣の人何書いてんやろ?」と思った瞬間にはじぃっと凝視している。私の視線はいつも思考の遥か先を走るのでコントロールすることができない。ヤベッと思った時にはもう見ている。当然おじさんのうなじも、おじさんになんとなく警戒されて、サッと体の角度を変えられるぐらいまで見てしまう。そういう時、おじさんはまるで乙女のような訝しげな目線を床に 落としている。すみません意味わかんないでしょう、大丈夫ゴミとかついてないですよ、ただ、ひとつ言えることは、あなたも他人の欲の対象として見られることがあるということです…。だが恐らく、おじさんの気づきは、まだその深度に達してはいない。

この場合、視線は行為としては十分ではない。おじさんのうなじの自意識という、荒れて放置された畑を具体的に開拓する為には、絶対に、行動する必要性がある。

しかし、実際に行為に及ぶことはないだろう。舐めてしまったあとの関係性のことを考えると憂鬱になる。まるでロリコン犯罪者のように相手自身に対しては無頓 着なのである。それにおじさんの立場としても、突然背後から知らない女がうなじを舐めてきたら…100%通報だ。ただでさえクソみたいな人生、警察のお世話だけはコンプしたくない。

そう、できれば関係性を持たない行為だけの現象として存在したい。その為のベストな形態が「妖怪」だと思う。 妖怪おじさんうなじ舐め。団地のエレベーターに潜み、夜毎疲れて帰宅する研究職のおじさんのうなじを舐め続け、新しい習慣に曝されたおじさんがどうなってしまうのか、じぃっと凝視して観察したい。