ロードオブザファザコン

父親は私を愛していなかったのではなく、実は父親なりの愛し方で愛していたのだ。それを心の底から自覚した時、ファザコンの真の苦しみが始まる。うちの父親の場合は私をペットみたいに愛していた。彼は自分の気分ひとつで私に構ったり放置したり部屋に閉じ込めたりどっかに連れ回したりものを食わせたり私の気持ちを決めつけたりした。私の気分は最悪だったけど、それでも彼は彼なりに私を愛していたのだった。めでたしめでたし。完。

 

とは終わらないのが死ぬまで続くロードオブザファザコンで、突然「顔が見たいから食事をしませんか、今日の夜」とか半年ぶりぐらいにメールが来た。今日の夜て。ほんと変わってねーな、私の都合無しに自分の好きな時に構いたいってところ。

 

今まで何回もこういう機会があり、色々と言葉を積み重ねて試みたけれども、最終的には「君が小さい頃は色々あったけど、今はこうして楽しく食事ができているし、君を応援できる僕って最高の親だよね」というドラマ以下の茶番に付き合わされる顛末になってきた。ここで会ってしまったらまたそうなるに違いない。メールを見ていたら心が不安定になってきて、だけどそういった状態を相手に説明するのももう面倒だし、無視を決め込むのもダメージを一人で背負い込むので癪だし、ちょっと考えて、うんこの絵文字を一つだけ書いて(?)返信した。テメェも言葉の通じない相手と対峙する苦しみをもっと具体的に味わうがいい。ギャハハ。

 

さて、父親のリアクションを色々想像してニヤニヤしていたら、「なんにも書いてないよ」と返信が。ググッたらdocomoの携帯ってうんこの絵文字対応してないんだって。しとけよ対応docomo。しとけよここぞという時に。なんか私の人生ってずっとこんな感じだよな。

社畜マインドが入社した

社畜マインドを持った人が入社してきたので頭が混乱している。「えぇーっ!?土日祝お休みいただけるんですかァ!?すっごいなぁ!!」とかお芝居みたいに言うので、お芝居かよと思う。社長さんの自虐っぽい冗談に「HAHAHA!」と笑う。本当にアルファベットで外国のオッサンみたいに笑っている。多分そーゆー笑い方して得意先の機嫌とってた上司が前職にいてその人のマネをしてるんだろーなとか考えている私はおべっかで笑うこともも仕事もできない。

 

会話は相変わらず頓珍漢だ。「社畜君はスキルは無いけどポテンシャルがあるからな。○○(私)さんもそうやってんけどな」「ありがとうございます~」「…。」「…(あっ)」この時点で嫌味だと分かるのだから空気がとっくに凍っている。不思議だなー字にしたらすぐわかるのに。音だとわからない。表情とか声色とか身体の様子とか全然判断材料に入ってない。いっそみんな文字で喋ってくんねーかなツイッターみたいに。

 

仕事は、社畜君が来た日はできないなりに1.5倍速くらいで片づけてしまった。しかも定時キッチリで帰るキャラなのに残業してしまった。なんということだと思った。これじゃ私が社畜君が来て焦ってるみたいだし、実際焦っている。そんな単純な反応が今まさに衆目に曝されているのかと思う突然恥ずかしくなって、「引っ越しして処々の問題が大方片付いたので仕事に集中する余裕が戻った。」とか、「直属の上司がストレスで血が出るまで壁を殴っている場面に遭遇してしまい、とても怖い。怖いが、ただ怖がっていても仕方がないので今自分が自分の立場でできることを考えてやるだけだという自覚が芽生えて正気に戻った。」とか、「社畜マインドに感化されて後ろ指を差されるのは一時的なこと。結果的にもし仕事ができるようになればやがて人は忘れるし、どういう動機だったにしろ仕事ができるようになるのは会社の目的には沿っている。だから合理的な判断で私は気にしない。」という物語を瞬時に捏造した。その物語を社長や上司に話すシミュレーションを脳内で繰り返す自分に割と早めに気が付いて正気に戻ってまた作業をした。なんと言っても社畜マインドに感化されているモードの私は正気に戻るのも早い。しかしそれが恥ずか(ふりだしに戻る

 

気持ちのはたらきを文章に起こしていて気が付いた。この会社の面接で「私は真面目で向上心ある人間です」と言ったけれど、あれは自分でも気が付かなかった大法螺だったんだ。前のバイトをしていた時は、自分の根がそういう人間だから周りの人とちょっと合わないんだよナ~とか思ってた。でも実際は怠惰で定時が早く来いと思ってるような人間で、作業の傍らラジオばっか聞いてたという事実を隠蔽したいんだろうな。なんのために?って考えるともう少し深度下げられそうな気もするけど眠くなってきた。最近何かを隠蔽するためばかりにあくせく心を働かしているんだ。それはとても疲れるからすぐ眠たくなってしまうんだ。でも生まれて物心がついてからずっとそうだった気もする。

引っ越しが鬱

「洗濯機と冷蔵庫、大きいの買ったら、引き揚げてきた時にどこに置くん。そんなもんゴミやと思って買いや」

母親がそーゆーこと言ってくるので、どーゆーことだよとなる。私みたいな脆弱野郎は早々に引き揚げてくるって決まってるのかよ。笑 態度では無関心を装っておいて突然言葉でキッツい干渉したり、その逆だったり、典型的なダブルバインドじゃねーか。毒親だァァァッ!子供を無力な存在として扱うことでいつまでも支配下に置こうとするまぎれもねぇ毒親の本性がいよいよ顕在化しちまったぜぇぇッ!ってなってる。だけど考えてみると、私は親に毒親のレッテルを貼って責任転嫁することで自分自身の病理や依存心を隠蔽しているのかもしれない。あるいは自分自身の病理や依存心を隠蔽しているかもしれないと思って頭の中で自分を痛めつけてしまうところまでもが毒親に骨の髄までコントロールされた思考回路なのかも。あるいはその「毒親に思考回路をコントロールされている」というところまでが自分自身が自分の罪を親に擦り付ける為に自分に仕掛けた巧妙な罠なのか。あるいは…。そんなことをぐるぐる考えて、引っ越し業者をさっさと決めなければいけないという現実から消極的に逃避していたら、首のリンパがなんかめっちゃ腫れてきた。多分ピアスの穴から血が出続けてるのでそれのせいだと思う。こんなとこ風邪ひいても腫れたことないのに。ハァ~私の白血球すら私が欠落した女性性を獲得しようとしてちょっとピアスの穴とかあけたくらいで早速抑圧しにかかるのかよ。ハァ~も~なんだよ。

 

階下からクッキーの焼けるにおいがしてくる。母親はいつもこうだ。私がナーバスになっていると、こうしてお為ごかしに大量にクッキーを焼いたり私の好きなチーズを大量に買ってきたりする。私はいつもそれらを「そうじゃねぇだろ」と半狂乱になってゴミ箱にブチ込みたい衝動を抑えながらニコニコ食べたり、時にはゴミ箱にブチ込んだりした。そんなにナーバスな気持ちになっちゃいけないのかよ。いつもいつも元気でいなきゃいけないのかよ。そんなの人間じゃねぇだろ。例えばそんな風に私が自分の気持ちを言葉で話し始めると、凶悪事件の被害者遺族みたいな顔をして延々黙っている。私が「なんで黙ってるの」とキレれば「どういえばいいか考えている」と言って逆ギレしだす。「物を渡してくるのはそうしてれば私の面倒な部分には一切触れないで済むし、なにか具体的にしてやった感と自己肯定感が手っ取り早く得られるからですよね?」とか言えば「あんたの分析は毒。言葉で話されるとまるで自分がその通りに考えてたと思ってしまう」とか言ってくる。なので「お母さんって泥みたいだね。私が何言っても自分の気持ちとか言わない。私がAと言えばそうだねAだねと言ったことについてやっぱりBかもと言えばそうだねBだねと言う。そうやって完璧に娘の意を汲む完璧な母親を志向してるのかもしれないけど、そんなの無理だし、それって完璧でもなんでもないから」「私、そんなに文章上手じゃないからあんたみたいに自分の気持ち言われへん」

あぁ不毛試合。そんな不毛試合をこちらから強制終了するために引っ越すんだった。鬱になってる場合じゃないんだ、早く業者を決める電話をしなきゃいけないんだと思ってキッチンに降りたら、母親がテーブルに小袋を沢山広げて、焼いたクッキーを小分けにしていた。「明日仕事場に持っていくねん」私が私のために焼かれたと思い込んでいたクッキーは、2、3個の歪な失敗作を残してカワイイ小袋に吸い込まれていった。

ハイテックぎぎぎ

「君は社会人として経験と勉強がまだまだ足りていない。なにか話す前に一度自分のことを客観的に考えてみなさい。そして新しい君になりなさい」

こないだ上司に特大ロンギヌスの槍を腹にぶっ刺された。急にものすごく単純なミスを連発するようになった。もうメールひとつ満足に送れない状態。オイーッww テメーが急所ぶっ刺してくるからこんなことになっちゃったぢゃんww て人の所為にしてるけど、なんかもしかしたらはじめっからこんな状態だったのかもしれない。そんなんでボーッと仕事してるとまた喫茶店に呼び出されて上司が

「なんか溜まってることがあるんだったら遠慮なく言ってな」

「いや、なんていうか、私、やばいんじゃないかと思って…」

「うん。やばいか、やばくないかで言ったら、やばいで」

あ、ハイ。

「自分はそこそこ仕事できるほうだ」「そこそこ頭がいいほうだ」、というレイヤーを生まれながらになんの根拠も無く持っていたのだけど、それが突然非表示にされたので、色々なものが見えてきた感じ。

 

ある時上司からの指示がよく聞こえなかったので、聞き返すと返事が無かった。「無視された」と感じた。まぁしょーがねーよな、私がよく注意して聞いてなかったんだから、とアタマの中で自分自身に対して取り繕いつつ、無意識に手元のハイテックのキャップ部分を思いっきり握りしめながらあけしめしてぎぎぎ…とかしていた。あとあとから上司が「私、人の話聞いてない時があるから、そういう時は聞き返してください。もしかしたら無視したと思われたのかなと思って…」とフォローされて、そん時はそっかーわざわざ言ってくれるなんていい人だニャンと思ってたけど、もしかしたらさっきのハイテックぎぎぎ見られてたかもしれん。ハイテックぎぎぎ見られてイライラしてることを悟られてフォローされたのだったら非常にまずい。イライラしてハイテックぎぎぎしてしまうとかヤバイ人やん。まずハイテックぎぎぎは実は別にイライラのサインではなかったということを相手にサインしないといけない。なので私は日常的に手癖でハイテックぎぎぎする人だということを相手に印象付けないといけない。と考え、さりげなくいつでもハイテックぎぎぎするように努めようとしていた。このようにして、例えば、恥ずかしい動作とかを相手に恥ずかしがっているととられるのがイヤで、あとから相手の認知を上書き修正しようとして何度も何度も反復して同じ動作をして平気なふりをする、みたいなことを子供の時にやってたな、と思い出した。なんか私って今も昔も本当の本当に頭がおかしいんだな。

 

認知が歪んでると働きにくい。社会のスピードについていく為には正確な情報を正確に入力して正確に出力するという一連の動作を、素早く行うことが必要で、目玉も頭も心も歪んでる私にはそれがとても難しい。喫茶店で最後に「しょうもないものを溜めないようにしてね」と言われたけど、私の溜めてることって、「自分が自分の希望通りに周囲に扱われないことの不満」とか、「自分が未熟だということを認めること自体からくる多大なるストレス」とか、本当にマジでしょうもないことなんだよね。そんなん他人からは本気でしょうもない扱いされることは間違いないからせめて自分だけは、しょうもなくなんかないよ、そうだね、つらいよね、うんうん…みたいな感じで自分に接しようとするんだけど、気が付いたら虚空をレイプ目で凝視して唇の皮ベリベリ捲ってしまうし、なんでこの年になるまでほっといたんだろうとかばっかり考えている今のところ。舌が酸っぱい。NEET HATARAKE,IF YOU CAN

社会的透明人間

バイト先に、会社の業種に似つかわしくないカンジの騒々しいおばさんがやってきて、なにごとやーとオロオロしていたら保険のセールスらしい。保険のセールスのおばさんってほんまにおるんや。老人か金持ちの家にしか現れない人たちやと思ってたわ。おばさんは「何歳までにいい人見つけて結婚しなさい、親を安心させるために出産しなさい」と会社の若い人たちに次々と人生のアドバイスをしていた。正論っぽいことを真正面から雑にぶつけてくる人っておばさんに多いけど、相手すると言葉にコントロールされてめっちゃ消耗する。ので、私はロクに挨拶もせずにサッと他の人におばさんを投げて仕事に戻った。

 

おばさんは一人一人を見渡して言った。「目を見れば大体その人のことがわかる。○○さんはいい目をしてる。○○さんも勢いがある目をしてる」そうして、私のことはスルーした。透明人間になったらこんな感じなのかな。まぁでも、挨拶しなかったしな…。

 

おばさんが帰ったあと、「保険入ってる?」と話を振られて固まった。なんせ、こちとらハタチ過ぎてから年金すら払ってこなかった身だし、友達とは自分たちが60歳以上生きる前提の話をしたことがなかった。年金を払ってないことを、こうして他人に言えるようになったのも最近だ。正規雇用の人ってこんなカジュアルに、それこそ「ランチどこいく?」みたいなカンジで「保険入ってる?」とか人に振るんだ、カッケェ~と思いながら、「というか、年金すらだ~いぶ払ってないから、まずそっちを今からなんとかしなきゃいけないんで、自分の生き死にのこととかなるべく考えないようにしてますね…」「それはやばいね。それはやばい」二回もやばい言われた。さしずめ私は、将来をロクに考えてないバカ、ということになるのか。特に遊びまくってきた覚えもないし、人生を自分の好き勝手にしたという実感も、散々好き勝手しておいて実はあまりない。将来をロクに考えてない以前に、自分がなにをロクに考えてなかったのかすらロクに考えられないまま年ばかりとってしまった。保険とか年金とか結婚とか出産とか老後とか、そういった社会的な営みからしたら、その一切がいまいち自分の延長線上としてピンと来てない私は、本当に透明人間なのかもしれない。

ひとり芝居へようこそ

結局、バイトにいる男の子の7割を一回は好きになった。私は好きになる度に芝居をした。本当は誰でもいいから好きになるために芝居をしていたのかもしれないけれど、とにかくステージにあがりたいからその為には芝居をしなければいけないと思った。世間知らずなところを強調して、相手が調子に乗って俺スゲェ話でマウンティングしてくると「へぇ~すごいですねぇ~」と三倍くらい感心して、いいところややってることを血眼になって探しては褒めまくって、意識的に語彙を減らして呂律の回らない感じで話したりした。数うちゃあたる方式でその中には私を好きっぽくなってくれる人もいたんだけど、途端に「クソみたいな私なんかのクソ芝居に引っかかるものすごいクソバカ」に見えて、すごく気持ち悪くなってダメだった。

 

三文芝居にひっかからないいかにも遊んでそうなやつとかもいたんだけど、その手の人の背後にはいつもHG創英角ゴシック#blackで私への罵倒が書いてあるのが見えた。「アラサーの欲求不満ババア」「漫画描いてたとかニート期間隠すための嘘だろ」「自己顕示欲の塊の痛いブス」「底辺高卒のフリーターは俺と釣り合わないから」「メンヘラ女とは関わりたくない」とか、その人の横んとこの空間に特大サイズで書いてある。なので、その文字ばっかり読んでる。

 

今日も新しい男の子がやってきた。服も髪も態度も履歴書も何もかもよれよれで、モラトリアムの空気が口の端っこからいつもダダ漏れてそうな人だった。高そうな腕時計がアンバランスさの象徴みたいだった。絶対知らないようなマイナーなマンガ家が好きとかゆーから、誰やと思ったら丸尾末広。どちゃくそ有名じゃねーか。読んだことないけど。なんで古谷兎丸の話とかしてたら「でも、僕、知り合いの女の子で丸尾末広知ってたらヒキます。頭おかしいんじゃねーのと思って」とか言われて、「アハハ、そぉですかぁ^^」とか返しといたけど、なんかモヤモヤでいっぱいになった。女だったら特定の漫画は読まないでほしいとかいうダサくて古臭い価値観を女の私の前で披露してくるのもシャクだったし、そういうことを言える時点で「あっ今この瞬間コイツは私を女枠から除外しことを表現したんだな」ってのもシャクだったし、そいつのことちょっとかっこいいなって思ってたから余計シャクで、イライラして頭に血が上ってボーッとした。一旦この状態になるともうダメで、ミスをしたり人の話が頭に入ってこなかったりした。

 

そうやって右往左往しながらも平静を装い、そして中学生のようにボロを出している私を、いかにも性欲を抑圧してそーな女の子がじとっと見てくる。「またかよ、落ち着けよ…w」みたいな目だ。心の中で「バーーーーーーカ」って言い返す。あんたの気持ち知ってる。私ちょっと前までそこにいたもん。バカだなって思ってんだろ。無様だなって。私だったらもっとうまくやれるわ、もし、その時が来たら…その人が現れたら…とか思ってんだ。ほんとは羨ましいんだろ。ほんとは今すぐ私みたいに躍りたいんだろ。でも浮かれたり傷ついたりすんのが恥ずかしいから足が動かないんだ可哀想に。いいか。"その時"なんて待ってても一生来ないぞ。"その人"なんてそのままいい子にしてても一生現れねぇからな。芝居に出る気の無い臆病な奴は、そこのB席5,400円でオペラグラス使って指咥えて見てろよ。バーーーーーーーーカ。だけどその客席にいる女の子もよく見ると私だったりする。

弱さと悪は近接している

その時間帯のミスは全てその人のものになるし、その人の行為は基本的に全て疑うし、その人をあからさまに軽蔑する態度はとってもいいことになっている。私も完全に流されてしまっている。その人がひとたびミスっぽいことをすると、怒りで脳みそがぎゅうっとなる。ああこの私の正当な集団の為の怒りを怒らないと、今すぐ周囲に表現しないとと思う。なんだかこのこのぎゅうっには、少なからず下卑た嗜虐性を孕んでいる気がしてならない。